つりあみ

どうして「吊り編み」が人気なのか、わかった気がします。


こんにちは、コロモビト.です。

みなさん「吊り編み機」という機械はご存知ですか?
初めて存在を知ったという方や、吊り編みの洋服を愛用している方など様々かと思います。

一言で説明すると「吊り編み機」とは、ニット生地を編み立てる旧式の編み機のこと。
中でも裏毛(スウェット)がよく知られていますが、現在では稼働する台数が減り、希少性の高い物となっています。

そのため通常のスウェットよりも価格が高く、1着2万円近くすることも・・・。
しかし、吊り編みを愛してやまない根強いファンが、日本だけでなく世界に存在するのです。

何がそこまで人の心を惹きつけるのか?
一般的な編み機と何が違うのか?

今回は“吊り編みの魅力”をじっくりと掘り下げていきたいと思います!

吊り編み機とは

吊り編み機の歴史

スウェットや靴下など、私たちの生活には欠かせない平編みのニットアイテムですが、歴史は意外にも浅く明治の終わりごろ「吊り編み機」がヨーロッパから日本へと渡ってきたことが始まりとされています。
そしていち早くこの「吊り編み機」で生地の生産に取り組んだ場所のひとつが和歌山県でした。

引用:セコリ百景

大正時代、和歌山には3000人体制以上の紡績・織布工場が複数存在し、メリヤス(平編みニット生地の総称)の生地生産で国内の一大拠点となっていきます。
そして1960年代まで、吊り編み機は日本のニット産業界の第一線で活躍していました。

しかし戦後になるとファッションの転換期を迎え、スウェットやTシャツなど、これまでの主な生産であった下着以外のメリヤス地の注文が激増。また、大量生産・大量消費という時代の波が押し寄せます。
その結果、量産を重視した高速の編み機が主流になり、生産性や採算性が極めて低い吊り編み機の需要はなくなり、姿を消していきました。
さらに機械メーカーも生産を終了し、多くの吊り編み機が廃棄処分されました。

このような歴史を経て、今日では現存する吊り編み機は国内で唯一和歌山のみとなり、非常に希少な存在となっているのです。

生地を編む構造

まずは気になる「吊り編み機」という特徴的な名前。

実はその名の通り、編み機が梁(はり)に吊り下げられているからなんです。
また日本に輸入され始めた当初、機械がスイス製だった事もあり、職人さんたちには“スイッツル(Switzer)”と呼ばれていました。

引用:セコリ百景

さて、本題の生地を編む構造です。
吊り編み機は、編み針が固定された台座がシャフトを中心に回転し「シンカーホイール」という固定パーツを通るときに生地が編まれる仕組みになっています。

引用:セコリ百景

生地になる際、糸は過度に引っ張られません。
この「引っ張らないこと」が吊り編みの大きなポイントなのです!

つまり糸が常にリラックスした状態で、引っ張られずに「自ら編まれていく」感じ。
まるで生き物のように、自分で前後運動しながら大きくなっていくんです。

そして、糸にストレスをかけずに「空気まで編み込んだ」ような編み方。
この構造こそが、吊り編みならではの独自の風合いを生み出すのです。

編まれた生地の特徴

先程「生地を編む構造」でもご説明しましたが、吊り編み機は生地を編む際に余計な力を加えません。
そして編み上がった生地も強制的に巻き取りません。

そのため、とても柔らかくふんわりとした生地に仕上がります。
また手編みのような温もり、独特の豊かな風合いを持っており、その特性を長期間保ちます。

1960年中頃までのヴィンテージと呼ばれるスウェットのほとんどが吊り編み機で作られており、何十年経った現在でも多くのファンを魅了し続けています。

シンカー編み機との違い

現在、業界では「吊り編み機」の代わりに「シンカー編み機」が使用されています。
シンカーとは編み機に使われる一部品の名称(薄い金属の板)で、この部品が使われる編み機をシンカー編み機と総称します。
それでは「吊り編み機」と「シンカー編み機」は何が違うのでしょうか?

生地の柔らかさ

まず大きく違うのが生地の「柔らかさ」です。
この差が生まれる秘密は“糸への負担”。

シンカー編みでは「糸を引っ張りながら高速で強制的に編んでいく」のに対し、吊り編みは糸が「自ら編まれていく」。
同じ生地幅が編める両機械を比較すると、吊り編み機が1時間に1mしか編めないのに対し、シンカー機は24m編むことができます。シンカー機の回転数が上がればその差はさらに開きます。

生産効率でいえばシンカー編み機の方が遥かに高いのですが、吊り編み機によってやさしく編み立てられることで、唯一無二の柔らかさが生まれるのです。

破裂強度

次に着目するポイントは「破裂強度」です。
破裂強度とは、風船を膨らませてどれくらいの膨張に耐える事ができるかを計測したもの。
とある吊り編み職人さんの話によると「編みの組織(編み方)」が全く異なり、シンカー編みでは「表糸」と「中糸」の糸の長さが違ったとのこと。そのため、力を加えると短いほうの中糸が先に切れてしまう(吊り編みは長さが同じ)。
実際に「破裂強度」を測定してみると、当時の記録でシンカー編み機は3.5kg・吊り編み機は7kgと、倍の結果になったそうです。
ようするに吊り編み機で編んだ生地のほうが、生地に伸縮性があり丈夫だということですね。

風合いが長持ちする

洗濯を2回繰り返すと違いは歴然だとか・・・。
洗濯すると、どうしても「風合い」が変化していきますよね。
しかし吊り編みはゴワゴワすることなく、生地が長持ちするんです。
「コレは自信を持って言える!」と職人さんが名言されています。

BARNSプロダクト「TSURI-AMI」

デザイナーの思い

引用:BARNS OUTFITTRS

50年代から現在に至るまで、様々な年代のアメリカの空気感をベースにモノづくりを展開してきた「BARNS OUTFITTRES」。
その歴史を語る上で欠かせないのが「TSURI-AMIプロダクト」です。
どのようにしてこのプロダクトが生まれたのか、以下のように語れられています。

デザイナー:吉村 直樹氏
2000年代に巻き起こったスウェットシャツブーム当時、希少性の高い吊り編み機で編まれた生地を使用したアイテムはBARNS OUTFITTRS以外にも存在していましたが、ぼくたちが作りたかったのは着心地の良さの中に、デイリーユースしてもヘタらないモノでした。
生地開発にはかなり職人さんにお世話になりましたが、その結果“唯一無二”のオリジナルの吊り編み生地ができたんです。
吊り編み機で編まれる生地の特性上、柔らかいのはもちろんですが「度目詰め」といわれる編みの詰め具合を増やすことによって、よりタフさが生まれました。理想としていた「着心地の良さとタフさ」が実現したときは、これはスタンダードとして時代に左右されず残っていくという確信があったので、デザインにもしっかり落とし込まなければという責任が生まれました。

引用:【PRODUCT】about:TSURI-AMI

このように、独自のファブリックを製作してから早十数年。
生地だけではなく、全てのディテールに対して昔ながらの機械を使用しながらも、時代を感じさせないアイテムたち。
だからこそ、アイテムを持っている皆様に伝えたいこと。
「何十年着ても大丈夫ですよ。だって“今でも変わらない”ということに私達は自信を持っていますから。」

モノづくりへの秘めたる情熱が伝わってきますね。

おすすめの「吊り編みスウェット」

BARNS OUTFITTRSが誇りを持ってお届けする「吊り編みスウェット」。
その中から今回は、当店ROCOCOとのコラボが実現した“別注モデル”をご紹介します。
「空気を編み込む」着心地抜群のスウェット・・・。
ぜひご堪能ください!

裏毛 クルースウェット

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裏毛 プルオーバーパーカー

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裏毛 ジップパーカー

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裏毛 カーディガン

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最後に

作業効率を度外視し、徹底的に品質にこだわる「吊り編み機」。

大量生産・大量消費社会に呑まれることなく、その力を信じ続けた職人さんたちの思い、そしてその良さを知り長年愛用している方達。

記事を書きながら改めて服の奥深さを感じ、なんだか温かい気持ちになりました。
身に纏う物の生産背景を知ることは、より愛着を持ってその服と付き合っていくことに繋がりますね。

コロモビト.ではあなたを魅力的にする情報をお届けしていきますので、またお越しいただけましたら幸いです。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました!